Annexe 6【分室6】〜シール(印章)

Desk Seal デスクシール

 

Large Tusk Lady's Hand Seal (Black Stone Intaglio of Mythological Scene)
牙彫「貴婦人の手首」大型シール(ジャスパーに神話文インタリオ)

c1910 France
1910年頃 フランス
刻印:鷲の頭(18金) 高さ:17.0cm
獣牙 ダイヤモンド ジャスパー ガラス イエローゴールド 銀 プラチナ

 

「貴婦人の手首」は19世紀のヨーロッパ芸術におけるセンチメンタリズムを背景に、特にジュエリーの分野で人気の意匠であった。ダイヤモンドと彫金の花飾りをあしらった黄金の袖口から伸びた白く優雅な手首は、ミニアチュール(細密肖像画)つきの腕輪とローズカットダイヤモンドの指輪を着けた、ヴォリュームある獣牙彫刻である。印面は、古代作品を模倣して光沢のない黒いジャスパーに神殿と神々をインタリオで刻んでいる。実用道具ではなく、キャビネットに収めて飾る鑑賞用の美術工芸品である。
 

 

Tusk Silver (Intaglio Coat of Arms beneath Coronet) Desk Seal
獣牙銀製(侯爵夫人の紋章)デスクシール

Mid 19thC France
19世紀中期 フランス
刻印:猪の頭(純度800)、H P(工房印)
高さ:9.5cm 獣牙 銀
 
高貴な雰囲気漂うビーズ彫刻を施した扁平獣牙ハンドル。銀製印面に刻んだインタリオはフランスの貴族階級で侯爵を示す王冠を戴く紋章である。盾持(サポーター)は左右2頭とも後ろを振り返る(rampant regardant)舌を出した獅子である。水上の白鳥と星の意匠の盾と格子模様フレッティの盾が二つ並んだ紋章は、婚姻により二つの家系が統合されたことを示す。シャンボノー(Chambonneau)侯爵夫人と二人目の夫の紋章と伝えられ、フランス南部ラングドック地方の貴族の家系に由来すると考えられる。
 

 

Carved “Diane Chasseresse/ Diane de Poitiers" Bust and Silver Desk Seal
牙彫「狩猟の女神ディアナ/ディアヌ・ド・ポワティエ」胸像銀製デスクシール

c1870 France
1870年頃 フランス
刻印:判読困難な印(ミネルヴァ?) 高さ:12.3cm 獣牙 銀
 
ギリシア神話のアルテミスは月と狩猟の女神で、ローマ神話のディアナと同一視される。潔癖であるがゆえ残忍な一面をもつ美しい処女神は多くの芸術家の主題として好まれた。
 
16世紀、国王アンリ2世の寵妃ディアヌ・ド・ポワティエは、19歳も年上ながら気品と美貌は絶世と謳われた。当時フォンテーヌブロー派の芸術家はこぞって、ディアヌを女神ディアナに見立て多くの作品を制作した。現在ルーヴル美術館所蔵の彫刻作品「アネットのディアナ(作者不明 Jean Goujonによる?)」もそのひとつである。原作は大鹿を抱く女神の全身像であるが、端正な顔の表情や髪型の細密表現から胸像としても人気が高い。
 
このシールはヴォリュームある獣牙でアネットのディアナを写した作品である。印面は所有者の頭文字M Cと刻まれている。

 
 

Carved "Hunting /Fishing Trophy" Handle Silver Desk Seal
牙彫「狩猟と漁の戦利品」ハンドル 銀製デスクシール

c1870 France
1870年頃 フランス
刻印:猪の頭(純度800)、LB?(工房印) 高さ:13.7cm 獣牙 銀

 

大振りな獣牙のハンドルは、片面に鹿と猟犬の頭部の間に狩猟の戦利品(獲物の野鳥や兎、猟銃、ホルン等)、もう片面に海豚の頭部とホタテ貝の間に漁の戦利品(獲物の魚の束、銛や網等)、さらにそれらを取り巻く花綱や葉飾り装飾を細かく刻んでいる。自然の恵みである獲物は豊穣を表す幸運の象徴である。
 
ハンドル先端は、王冠を頂いた盾(小動物の意匠)と盾持ち一対の犬?の紋章とともに、フランス語で "JE RASSURE" と刻まれている。これは「我、保証す」の意で、この印章で封印することは、即ち所有者本人の書簡であることを保証するものであった。銀製の印面は所有者の頭文字 S K?が飾り文字で刻まれている。ヴォリュームある迫力の逸品。ハンドルくびれ部分に修復あり。
 

 

Silvered Bronze Mounted Bloodstone Desk Seal
銀メッキブロンズ装飾ブラッドストーンデスクシール

Late 19thC France
19世紀後期 フランス
サインなし 高さ:6.2cm ブラッドストーン ブロンズ
 
暗緑色に血沫のような赤い斑点模様のブラッドストーンは、磔にされた十字架の下に染み込んだキリストの血が石になったものして絶対的な魔除けの力が宿る神聖な石と伝えられる。そのため家族や自分の紋章や頭文字を彫るシール(印章)に使用されることが多い。卵型のブラッドストーンを銀メッキしたブロンズ細工で装飾したデスクシール。印面は所有者の頭文字L A?と刻まれている。オリジナルケース入り。
 

 

Silver-Mounted Agate (Blue Paste of Intaglio Erotic Scene) Desk Seal
銀装飾瑪瑙デスクシール(ブルーペーストにエロティカのインタリオ)

Middle 19hC France
19世紀中期 フランス
刻印:猪の頭(純度800)、RL?(工房印)
高さ:8.1cm 瑪瑙 銀 模造宝石(ペースト)
 
宝石を模した人工素材ペーストは、鉛によって透過率や屈折率を高めたガラス(高鉛フリントガラス)の一種で、ヨーロッパでは18世紀後期からペースト・ジュエリーが流行した。
 
スコットランド出身のJames Tassie(ジェームス・タッシー 1735–1799)と甥のWilliam(ウィリアム)は、色付きペーストを彫刻して古代のカメオやインタリオを復刻し大成功をおさめた。また当時イタリアポンペイの発掘で男女の性愛を描いた壁画が発見されるや、古代ローマのエロティカ美術の蒐集が好事家の間で流行し、タッシー工房はエロティカ意匠の作品も制作した。
 
この作品の印面のブルーペーストは18世紀のタッシー作品で、19世紀にハンドルに瑪瑙を使い贅沢なデスクシールに仕立てたものである。女性が男性器を握り足を絡ませた裸の男女は、1771年ナポリで出版された Pierre d’Hancarville著 "Veneres uti observantur in gemmis antiquis”からの意匠である。

 
 

Bronze Art Nouveau Maiden Statuette Desk Seal
ブロンズ製アールヌーヴォー女性立像デスクシール

c1900 Probably Austria
1900年頃 おそらくオーストリア
サインなし 高さ:10.8cm ブロンズ
 
10cmほどのサイズながら女性の顔や手指の表情、薄衣を通して伝わる女体の量感まで、繊細で丁寧に作られている。台座を帆立貝に見立てた立像は愛の女神ヴィーナスと思われる。印面は何も刻まれておらず未使用である。オリジナルケース入り。
 

 

2 Silver Cupid Figural Seals
銀製クピド像 デスクシール2点

c1905 Probably Nederland /Late 19thC France
(左)1905年頃 おそらくオランダ 
刻印:1906年チェスター(英国)輸入印、925(純度)、n、工房印? 高さ:5.9cm
(右)19世紀後期 フランス
刻印:猪の頭(純度800) 高さ:9.0cm
 
気紛れに恋の矢を放つローマ神話のクピドは、翼をもつ悪戯好きの幼児として表されいつの時代も人々に愛されてきた。弓矢を携え笑みを浮かべる銀製のクピド像2点は、恋人への手紙の押印にふさわしいシールである。弓矢を構えたクピドは、印面は何も刻まれておらず未使用である。中空の左足に鋳造時の小さな罅がある。矢を手にしてはにかむクピドは、銀無垢の重みがあり彫像として品質が高い。所有者の頭文字E Dと刻まれた印面部分は、取り外し交換可能である。 
 
*2点は別売りです
(右)*SOLD*

過去の作品

Tusk Silver (Intaglio Coat of Arms beneath Coronet) Desk Seal
獣牙銀製(伯爵の紋章)デスクシール

Mid 19thC France
19世紀中期 フランス
刻印:猪の頭(純度800)、J T?(工房印)
高さ:7.8cm 獣牙 銀
 
シンプルな扁平獣牙ハンドル。銀製印面に刻んだインタリオはフランスの貴族階級で伯爵を示す王冠を戴く紋章である。14個の鈴 (grelots)を配列した盾とそれを守る2頭の獅子。鈴は鷹狩り用の猛禽類の脚に装着する鈴を表す。高価な鷹やハヤブサを飼育し調教することは王侯貴族の遊猟の中では特に贅沢な趣味とされ、この伯爵の紋章は鈴の多さで鷹狩りの名家であることを誇示している。また紋章学でクーシャン(couchant)と呼ぶ、左(陰影では右)の寝そべる体勢の獅子は滅多にない珍しい意匠である。19世紀には革命と鉄砲の普及により鷹狩りは廃れるが長きに渡るブルボン王朝の時代、ヴェルサイユにおける国王の狩猟のための「お狩場」に関係した家系のシールと推察できる。
*SOLD*

Foucher de Careil Family Tusk Siver Desk Seal
カレイユ領フーシェ家 獣牙銀製デスクシール

Mid 19thC France
19世紀中期 フランス
刻印:猪の頭(純度800)、判読困難な工房印
高さ:8.5cm 獣牙 銀
 
シンプルな獣牙ハンドル。銀製印面に刻んだインタリオはフランスの貴族階級で伯爵を示す王冠を戴く紋章である。ラテン語のモットー "VIRTUTEM A STIRPE TRAHO(己の源より徳を引き出す)"と獅子や女神の図像からフランスブルターニュ地方カレイユ領フーシェ家のものと分かる。数ある紋章入りシール(印章)でも家系の判断できる作品は比較的珍しい。この紋章から一族の誰かは特定できないがフーシェ家では革命と帝国の将軍ルイ・フランソワ(1762-1835)、著書もある政治家ルイ・アレクサンドル(1826-1891)が有名である。
*SOLD*

Bronze Lady's Hand Desk Seal
ブロンズ製「貴婦人の手首」デスクシール

19thC France
19世紀後期 フランス
サインなし 高さ:10.8cm ブロンズ
 
「貴婦人の手首」は19世紀のヨーロッパ芸術におけるセンチメンタリズムを背景に、特にジュエリーの分野で人気の意匠であった。ふっくらとした手の甲、しなやかに伸びた指、優美で柔らかな表情の若い女性の手首は、硬質な金属であることを忘れさせるブロンズ彫刻である。横にしてペーパーウェイトにもできるヴォリュームがある。印面は何も刻まれておらず未使用である。
*SOLD*

"Lion and Serpent" Silver-Mounted Bloodstone Desk Seal
「獅子と蛇」銀装飾ブラッドストーンデスクシール

c1870 France
1870年頃 フランス
刻印:猪の頭(純度800)と判読困難な工房印
高さ:8.3cm 銀(一部鍍金) ブラッドストーン
 
古代より権力や勇気の象徴として崇拝される百獣の王ライオン。天体上で獅子座の隣にうみへび座があることから、獅子が蛇を支配し優位に立つ姿は王権の象徴として表現されることが多い。フランスにおける「獅子と蛇」像では、ルイ・フィリップ王の七月王政を讃え制作されたアントワーヌ=ルイ・バリーの彫刻作品が名高く、これにより19世紀を通じて獅子の意匠は王政復古を支持する王侯貴族に好まれた。このシールもそのひとつである。
 
印面には王冠を戴いた紋章とともに、ラテン語で "QUIA (EGO) NOMINOR LEO(なぜなら(私は)ライオンという名だからである)"とインタリオで刻まれている。これはラテン語編集されたイソップ寓話集からの、権威を誇示するライオンの有名な台詞である。
 
植物の繁みから出てブラッドストーンに巻き付く蛇を獅子が噛み付く様子を、僅か8cm程度のシールに表現した作品。獅子の鼻に寄せた皺、毛並み、蛇の鱗など緻密な銀細工が素晴らしい。
*SOLD*

Carved Rock Crystal (Intaglio Coat of Arms beneath Coronet) Desk Seal
水晶彫刻(男爵またはバロンの紋章) デスクシール

c1870 France
1870年頃 フランス
サインなし 高さ:5.2cm
 
古代ローマの博物学者 大プリニウスが「永遠に溶けることのない氷」と考えた無色透明な水晶は、悪しきものを浄化する力が宿る石として、世界各地で工芸品や装身具に加工され珍重されてきた。水晶の自形結晶のきれいな六角柱を利用し、十二角形の面にカットした持ち手のデスクシールである。
 
紋章学で、王侯貴族だけに許される王冠を頂いたヘルメットと鹿をアレンジした紋章がインタリオで刻まれている。王冠の意匠から男爵またはバロンの紋章と考えられる。装飾を排した、シンプルで品質の高い作品である。
*SOLD*

René Lalique Black Glass Desk Seal "TÊTE D'AIGLE No.175"
ルネ・ラリック黒ガラスデスクシール "TÊTE D'AIGLE(鷲の頭) No.175"

1911 (Model Designed) France
1911年(原型デザイン) フランス
サイン: R. Lalique(グラヴュール) 高さ:8.0cm
 
アールヌーヴォーを代表する宝飾作家であったルネ・ラリックはガラス製作に興味を移し、1909年ガラス製造工場を借りて香水商フランソワ・コティとの仕事を始める。この鷲の頭のシールは、1911年原型デザインの、ラリックのガラス作家としてのキャリアにおける初期モデルで、密度の高い繊細な小品は宝飾品に通じる趣が感じられる。
 
オニキスを思わせるプレス成形の黒ガラスに施されたオリジナルの白パチネが残る。印面は、元所有者のモノグラム(BF?)がインタリオで刻まれている。インタリオ制作は高い技術を要す上に、石や金属製の印面に比べて脆いガラス製シールへの彫刻は、職人の卓越した手彫り技術が要された。ラリックのシール作品で、当時注文で誂えたインタリオが印面にあるものは大変珍しい。
*SOLD*

Maison Alphonse Giroux Bronze Psyche's Hand Desk Seal
メゾン・アルフォンス・ジルー「プシュケーの手」ブロンズ/ガラスデスクシール

c1840 France
1840年頃 フランス
刻印なし 高さ:9.5cm ブロンズ ガラス
A. GIROUX & C オリジナルケース入り
 
18世紀末から19世紀初めヨーロッパの芸術分野では理性、秩序、調和を重んじる古典主義や合理主義に対抗して、精神的な内面や、自然や神秘的なものを表現するロマン主義が台頭し、個人の感性や情緒を大切にするセンチメンタリズムがひとつの思潮となった。蝶を摘む少女の手という、時代性を反映した意匠のデスクシールである。プシュケーはギリシア語で「魂=蝶」の意味であり、ギリシア神話では蝶の羽をもつ少女の姿で表される。彼女は愛の神クピド(エロス)の妻である。
 
文房具の範疇を超えた質の高いブロンズ彫刻と透明度の高いカットガラスは一流メゾン、アルフォンス・ジルーによる。1799年パリで創業し高級家具と小物の製造販売で王侯貴族や新興ブルジョワを虜にしたアルフォンス・ジルーは、代が変わり店を閉じる1885年までの間、常に顧客が望む最高の贅沢品を提供していた。
 
1841年1月パリ滞在のアメリカ人R. M. Gibbes (1796-1864)からD. M. Perine (1796-1882)への贈り物であったとの簡易なメモが付属し、印面とケース上蓋にD.M.Pの頭文字が刻まれている。二人ともスミソニアン・ナショナル・ポートレート・ギャラリーに肖像画が所蔵されており、地元の名士であった人物である。
*SOLD*

Carved Infant Bacchus Bust and Silver Desk Seal
牙彫「幼いバッカス」胸像銀製デスクシール

Middle 19thC France
19世紀中期 フランス
刻印なし 高さ:8.6cm 獣牙 銀
 
ローマ神話で酒と豊穣の神バッカス(ギリシア神話のディオニソス)は美術の分野において、農業の神として作物が季節とともに成長するように、幼児の姿で新年を、成熟した姿で実りの秋を表すことがある。
 
かすかに歯を見せる幼子の微笑み、頭を飾る葡萄の葉と実の細密表現は、シールという文房具の域を超えた胸像彫刻である。印面は所有者の頭文字E Dと刻まれている。
*SOLD*